人事制度をつくる際、「等級制度をどうするか」は避けて通れないテーマです。
調べてみると、よく出てくるのが、
職能資格制度・職務等級制度・役割等級制度
という3つの考え方です。
すると、
「うちは職能型がいいのか」
「最近はジョブ型だから職務等級なのか」
「役割等級制度に変えた方がいいのか」
と考え始めませんか?
しかし、実際に中小企業の人事制度づくりを支援している立場からすると、
私はここから考え始める必要はないと思っています。
先に考えたいのは、
「自社には、どのような役割の人が必要なのか」
ということです。
必要な役割を整理し、
→どんな仕事を担当してもらうのか
→どこまで責任を持つのか
→この先、何ができるようになってほしいのか
を考える。
その結果、必要な等級数や、それぞれの等級で重視すべきものが見えてきます。
この記事では、職能・職務・役割等級の違いを整理したうえで、
「型から選ばず、役割から等級制度をつくる」という実務的な考え方をご紹介します。
1.そもそも等級制度とは何のためにあるのか
等級制度とは、社員を一定の基準で区分し、会社がそれぞれの社員に何を期待するのかを明確にする仕組みです。
「1等級より5等級の方が偉い」と序列をつくることが目的ではありません。
重要なのは、
その等級にいる人に、会社として何を求めるのかを説明できること
です。
- どんな仕事を任せるのか
- どこまで責任を持つのか
- どんな成果を期待するのか
- そのためにどんな能力が必要なのか
- 次の段階へ進むには何を身につければよいのか
こうした内容を、社員にも分かる形で整理します。
人事制度全体では、
組織・役割 → 等級 → 評価 → 賃金 → 育成
という流れになります。
等級制度は、評価制度や賃金制度など具体的な仕組みにつなぐ、いわば人事制度の背骨です。
だからこそ、評価表や給与表から先につくるのではなく、まず「誰に何を求めるのか」を整理することが重要です。
人事制度全体の設計手順はこちら
2.職能・職務・役割等級は何が違う?
3つの考え方をシンプルに整理してみましょう。
| 着眼点 | 職能資格制度 | 職務等級制度 | 役割等級制度 |
|---|---|---|---|
| 主な基準 | 職務遂行能力 | 担当する仕事 | 担う役割・責任 |
| 一言でいえば | 何ができる? | 何をする? | 何を背負う? |
| 主に見るもの | 知識・経験・能力 | 職務内容・難易度 | 責任・権限・期待成果 |
| 活用しやすい場面 | 能力蓄積・育成 | 専門職・職務明確型 | 管理職・中核人材 |
職能資格制度
「その人がどの程度の職務遂行能力を持っているか」で格付けする考え方です。
経験を積み、できる仕事が増え、より難しい仕事ができるようになれば上位等級へ進む。若手社員など、これから能力を蓄積する段階では分かりやすい考え方です。
職務等級制度
「担当している仕事そのもの」に着目します。
仕事の内容や難易度・価値を基準とするため、専門性が高く、職務を比較的明確に定義できる職種とは相性がよいでしょう。
役割等級制度
「その役割を担う人に、何を任せるか」を重視します。
仕事内容だけでなく、その仕事を通じてどこまで責任を持ち、何を実現してほしいのかまで考えます。特に管理職になるほど、「何ができるか」だけでなく、何を背負っているかが重要になります。
こうなると、
「じゃあ、うちは3つのうちどれを選べばいいのか」
と悩んでしまいませんか。
しかし、悩みどころはそこではありません。
その前に、なぜこのような3つの考え方が存在するのかを見てみましょう。
3.なぜ日本企業の等級制度はこんなに分かりにくいのか
背景には、日本の人事制度が歩んできた歴史があります。
戦後、経営者側では「仕事の内容や価値に応じて賃金を決める」という職務給の考え方が強く打ち出されました。現在でいうJOB型に近い発想です。
一方、労働側では生活を安定させる賃金を重視する考え方が強く、両者の議論はなかなか一致しませんでした。
一つの転換点となったのが、1969年の日経連『能力主義管理』です。
ここで、全従業員を職務遂行能力によって序列化する資格制度という考え方が示されます。
実務的に言えば、
「仕事を細かく切り分けて対価を設定しなくても、担当する仕事の責任を果たせているなら、その能力を持っていると考え、対価を設定すればよいのではないか」
という発想です。
仕事が人についていて、個々に内容が異なる日本企業の実態に合わせた工夫ともいえるでしょう。
これが後の職能資格制度へと発展します。さらに1970年代のオイルショック後、その影響からいち早く立ち直った日本型経営への評価が高まり、その定着を後押しします。
しかし、その仕組みを長く運用する中で、別の問題も出てきました。
現在の等級制度で増えている4つの悩み
現在の現場では、例えばこんな悩みがあります。
「責任を持っている人と、そうでない人が同じ等級・処遇って変じゃない?」
責任の重さが違うのに、等級も処遇も近い。成果責任が重くなるほど、違和感は大きくなります。
「部長職を外れた人の等級はどうするの?」
定年延長や再雇用で、役職を離れた後も長く働く時代です。役職はなくなっても経験や能力までなくなるわけではありません。
「若手のキャリアと処遇をどうする?」
上位ポストは順番待ち。一方で採用競争から初任給を上げれば、既存若手との賃金差は縮まります。「経験を積んだ分をどう説明するか」が問われます。
この現象については、給与逆転現象・賃金圧縮とは?初任給引き上げ後の給与見直しもあわせてご覧ください。
「専門性の高い人を処遇したい。でも管理職にするのは違うよね」
高い専門性で成果を出す人が、必ずしもマネジメントに向いているとは限りません。
こうして見ると、現在の企業には職能・職務・役割という考え方がさまざまな形で混在していると捉えた方が実態に近いでしょう。
だからこそ、
「うちは職能型、職務型、役割型のどれがいいのか?」
と制度の名前から考えても、簡単に答えが出ないのは当然です。
4.等級を決める前に「必要な役割の層」を整理する
では、実際にはどう考えればよいのでしょうか。
私がお勧めするのは、
役割を定義したあと、すぐ等級制度に入らないこと
です。
まず、自社にはどのような役割の違いが必要なのかを整理します。
例えば、次のような9つの役割層が考えられます。

①経営層
社長の右腕・左腕として経営意思決定に関わり、担当領域だけでなく会社全体を見て、全体最適で思考・判断する層です。
②管理職層
経営方針を自部門の戦略・計画へ落とし込み、他者を通じて組織目標を達成する層です。
③プレイングマネージャー層
自らも成果を上げながら、チームや担当組織の成果にも責任を持つ層です。
④エースプレイヤー・高度専門職層
高度な専門性を活かして高い成果を上げ、専門領域から周囲・組織へ貢献する層です。
※専門職としてのキャリアを用意したい場合は、複線型人事制度もあわせてご覧ください。
⑤コーチ層
メンバーの能力向上と行動の質・量の向上に計画的に取り組み、チームの戦力向上に貢献する層です。
ベテラン社員や役職を離れた社員の経験を、技能伝承や後進育成に活かす役割として設けることもできます。ただし、年齢で決める層ではありません。
⑥キャプテン層
主体的に周囲を牽引し、チーム全体または一部のユニットで成果を上げる層です。
管理職ではないため指揮命令権はありませんが、自分の成果だけでなく、周囲を動かした結果まで意識します。
⑦リーダー層
担当業務で成果を牽引し、チームの成果に貢献する層です。
自分の仕事では一人前で、周囲へのフォローも求めますが、チーム全体を動かす責任までは負わせません。
⑧メンバー層
担当業務について、独り立ちできる領域を増やしていく段階です。
⑨トレーニング層
支援を受けながら仕事を覚え、自分でできる仕事を増やしている段階です。
リーダー、キャプテン、コーチを一言で表すなら、
リーダーは「自分のポジションで勝ち、チームに貢献する」
キャプテンは「周囲を牽引し、チームを勝たせる」
コーチは「チームが勝てるよう、メンバーを育てる」
という違いです。
ここで重要なのは、9つ例示したから9等級にするわけではないということです。
「メンバーとトレーニングは一つでよい」
「管理職とプレイングマネージャーは分けない」
「専門職コースは今のところ必要ない」
「ベテランの力を育成に活かしたいのでコーチは必要」
といった議論をします。
削る。統合する。必要なら枝分かれさせる。
その結果、
「当社には5つの等級が必要だ」
と決まる。
何等級にするかは最初に決めるものではありません。必要な役割を整理した結果として決まるものです。
5.役割を「職務・責任権限・能力・評価」まで掘り下げる
役割層が見えてきたら、それぞれを掘り下げます。
例えば、こんなマトリクスです。
| 役割層 | 職務・担当業務 | 役割・責任権限 | 期待成果 | 必要な能力 | 求めること・評価項目 |
|---|---|---|---|---|---|
| 管理職 | |||||
| キャプテン | |||||
| リーダー |
ポイントは、評価項目から考え始めないことです。
まず、職務=何をするのかを整理します。次に、役割=その仕事を通じて何をどこまで背負うのかを明確にします。
そこから、その役割を果たすために何ができる必要があるのかという能力を考え、最後に、会社は何を見て評価するのかへつなげます。
例えば管理職なら、「部門計画をつくる」だけでは十分ではありません。
経営方針を部門戦略へ落とし込み、人員を配置し、部下を育成しながら、他者を通じて部門目標を達成する。ここまで整理すれば、評価すべき項目も、部門成果、全体最適、組織運営、部下育成と自然に見えてきます。
つまり、役割 → 等級 → 評価は、本来一続きなのです。
参考記事:整理した役割層ごとに、評価項目の中身をどう変えるかは、[評価項目の作り方|階層別に「役割・能力・成果」から設計する]で詳しく解説しています。
すでにある評価制度を見直したい場合は、[人事評価制度の見直し方|若手が辞めない「成長する評価」3つの手順]もご覧ください。
6.役職と等級はどこまで連動させるか

まず図1を見てください。役職と等級を連動させた形式です。
主任から係長へ、係長から課長へ、課長から部長へと役職が上がれば、等級・賃金も連動して変わります。
逆に言えば、役職が同じ間は、基本的に同一等級の中での変化となります。
社員から見ると、「課長になれば責任も等級も賃金もこう変わる」という関係が分かりやすい制度です。

次に図2です。こちらは、役職と等級を分けて考えます。
役職は「今どのような責任・権限を担っているか」、等級は「会社としてどの水準に位置づけるか」を表します。
そのため、高い専門性を持つ人を役職とは別に上位等級で処遇したり、役職がなくても活躍に応じて高い等級に位置づけたり、新任部長とベテラン課長が同じ等級に入ったりする設計も可能です。
柔軟性が高い一方、「この等級の人に、会社として何を期待しているのか」を、より明確に定義する必要があります。
連動型・非連動型の特徴比較
両者の特徴を整理すると、図3のようになります。

図表で見ると分かる通り、どちらにもメリット・デメリットがあります。
重要なのは、
どちらが正解かを決めることではありません。
自社では、
- 役職と等級をほぼ連動させるのか
- 一定の幅を持たせて緩やかに連動させるのか
- 役職と等級をかなり分けて考えるのか
を明確にすることです。
単に、
「部長は何等級か」
を決めるのではなく、
「役職と等級を、どこまで連動させる会社にするのか」
から考えることが重要です。
7.うちは「何型か」と決めなくていい。等級制度は名前でなく中身
ここまで整理すると、
「結局、職能型・職務型・役割型のどれにするのか」
という最初の問いへの答えも見えてきます。
私は、会社全体を無理に一つの型へ決める必要はないと考えています。
| 層 | 重視するもの |
|---|---|
| 若手社員 | 何ができるようになったか=職能重視 |
| 管理職 | 何を任され、どんな成果を出したか=役割重視 |
| 高度専門職 | 専門職務の難易度・生み出す価値=職務+役割重視 |
一つの会社の中で、こうした考え方が混ざっても構いません。
むしろ、それぞれの段階で会社が社員に何を求めているのかが明確なら、その方が自然です。
職能・職務・役割という名称は、制度をつくる前に選ぶ「型」というより、できあがった制度の特徴を説明するための名前やラベルと考えてもよいでしょう。
大切なのは、
「当社は○○型の等級制度です」
と言えることではありません。
社員に、
「今のあなたには、これを期待しています」
「次の段階では、ここまでできるようになってほしい」
と説明できることです。
等級制度は、名前でなく中身。
型に会社や社員を合わせるのではなく、自社が社員に何を求めるのかを先に考える。
その結果として職能・職務・役割の考え方が混ざったとしても、それが自社に合った等級制度なのだと思います。
自社に必要な役割と等級を整理してみませんか
等級制度を見直すとき、いきなり等級表をつくる必要はありません。
まず、自社にどんな役割が必要なのか。
そして、その役割で、何を担当し、何を背負い、何ができる必要があるのか。
ここから整理してみてください。
今回ご紹介した考え方をもとに、「役割から考える等級設計ワークシート」をご用意しました。
9層から自社に必要な役割を整理し、必要に応じて削る・統合する・枝分かれさせながら、役割を整理した結果として必要な等級数を考えるワークシートです。
さらに、職務・責任権限・期待成果・必要能力・評価項目まで一続きで整理できます。
下記フォームに会社名・メールアドレスをご入力いただくと、PDFのダウンロードURLをメールでお送りします。
自社に合う等級制度を一緒に整理しませんか?
ワークシートを使って整理してみると、
「この役割は分けるべきか」「今の役職と等級をどうつなぐか」など、
自社ならではの論点が見えてくることがあります。
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