- 「社員から評価への不満が出ている(この理由で退職者がでている)」
- 「管理職によって評価にばらつきがある」
- 「昇格や給与の決め方を、社員にうまく説明できない」
こうした問題が重なると、評価項目や評価シートを見直さなければと考えがちです。しかし、不満の出口になっている評価を直しても、その影響は役割・等級・賃金など全体に至らず、根本的な解決につながらないケースが多々発生します。
なぜなら、評価は人事制度の入口ではないからです。評価表は、「この会社では、誰に、どのような役割を任せ、どのような成果や行動を期待するのか」を、日々の仕事に翻訳したものであるべきです。その前提となる組織や役割が曖昧なままでは、評価項目だけを整えても、制度全体に一本の筋は通りません。
人事制度を設計するときは、近未来(3~5年後程度)の会社・組織の目指す姿を描き、そこから逆算し、必要な役割を明らかにしたうえで、仕組み(制度)に落とし込んでいくことを推奨しています。
具体的な制度の設計領域は大きく分けると、①組織と役割を定める、②等級・評価・賃金をつなぐ、③制度運用を育成・配置へつなぐ、の3つです。この3つを連動・循環させていくことで、組織と個人の成長を両立させていきます。
この記事では、人事制度を新しくつくる場合と、既存制度を改定する場合の両方を念頭に、設計の手順と各段階での着眼点・留意点を解説します。
人事制度の設計は何から始めるべきか
人事制度の設計は、次の順番で考えるのが基本です。
- 経営方針・成長戦略から、3~5年後の組織像を描く
- 必要な役割・人材と、現在とのギャップを整理する
- 役割を等級制度に落とし込む
- 期待する行動・成果を評価制度につなぐ
※状況に応じ賃金シミュレーションを先行して実施します。 - 役割・等級・評価と賃金をつなぐ
- 育成・配置・運用まで一連で設計する

右へ進むほど、制度は具体的になります。賃金表や評価シートは、比較的目に見えやすく、議論もしやすい領域です。しかし、上流にある「どのような組織をつくりたいのか」「社員に何を任せたいのか」が曖昧なまま下流から設計すると、後になって制度同士のつじつまが合わなくなります。事業の成長に合わせ、徐々に規模が拡大していくことで、実態として役割は徐々に変化していきます。近未来におけるその変化を先取りし、新しい器の形を考えていく過程でもあります。成長した植物を、大きめの鉢に移し替えるようなイメージです。
大切なのは、等級・評価・賃金の仕組みをつくる前に、少し先の事業の成長に合わせ、人に関する仕組みを整えていくイメージをもつことです。
テーマ別に詳しく知りたい方へ
人事制度全体の設計手順はこのまま読み進めてください。個別のテーマを詳しく確認したい方は、以下の記事で解説しています。
- 人事制度を見直すタイミング: 人事制度を見直すべきサイン|会社の成長に制度が追いつかない
- 等級・キャリア: 等級制度とは?職能・職務・役割等級の違いと、自社に合う制度のつくり方 / 複線型人事制度とは?管理職だけではないキャリアパスのつくり方
- 評価制度の見直し・若手定着: 人事評価制度の見直し方|若手が辞めない「成長する評価」3つの手順
- 評価制度の設計: 人事評価制度の作り方|評価シートを作る前に決めたい6つのこと / 評価項目の作り方|階層別に「役割・能力・成果」から設計する
- 賃金制度: 賃金制度の作り方|給与テーブル前に決める「何に払うか」 / 初任給引き上げ後の既存社員の給与 / 賃金逆転・賃金圧縮への対応
- 外部コンサルへの依頼・費用: 人事制度コンサルとは?支援内容・費用の考え方と依頼前の見極め方
なぜ「評価から作る」と制度がばらばらになりやすいのか
評価制度への不満が出ている会社では、評価項目の修正から始めたくなります。ただし、評価への不満が、必ずしも評価表だけから生まれているとは限りません。
例えばこんなケースはどうでしょう。創業期から成長期にかけて成果創出型のエースプレイヤーが役職につき活躍しています。組織の拡大とともにマネジメントや育成が重要になってきますが、本人のスイッチはなかなか切り替わりません。評価面談等である日突然、もっとマネジメントを…とか、部下を育てろ…と言われ、低評価をつけられます。まったく納得がいかず、ライバル企業に転職してしまいました…。
たしかに、評価項目がこう変わるよ…と事前に伝わっていれば…という話でもあります。一方で先に組織と役割を再設計していなくては評価項目も考えようがありません。場当たり的になり、結果現実とのギャップが発生し、新たな問題が発生します。
別のケースです。等級ごとの役割の違いが曖昧で、若手社員とベテラン社員がほぼ同じ評価項目で評価されることがあります。キャリアが違っても仕事内容が大きく変わらない…こんなケースもありますね。こうなると当然、同じことをしている若手は、金額の差に対し不満をもちます。でもキャリアを積んでいる人の方が給料は高い。働きぶりにそれほど大きな差があるようには見えない。なんならITスキルはむしろ若手の方が高い。そりゃストレスですよねぇ。全く同じにするなら処遇も同じ、違うなら違いを役割として明確にし、その行動を求める…といったアクションが必要です。評価だけ調整しても、問題の解決にはならないのです。
人事制度でまず明らかにしたいのは、自社の未来を実現するために、それぞれどんな役割を担ってほしいかです。
評価は入口ではなく、組織と役割を日常の仕事へ翻訳した出口。この順番を間違えないことが、人事制度設計の最初の留意点です。ではここから、弊社が伴走するオーソドックススタイルで設計ステップをお伝えします。
関連記事:人事制度を見直すべきサイン|会社の成長に制度が追いつかない
STEP1|経営方針・成長戦略から3~5年後の組織像を描く
まずは、3~5年後に会社や事業をどのように成長させたいのかを、改めて定義します。中期計画等を制度設計用に翻訳していく工程です。その上で、その戦略を推進するためには、どのような組織設計をしていくべきかを考えていきます。育成や採用なども当然必要になるでしょうが、不確定要素も含め、現実的なラインで「上手く進んだとしたらこんな状況になっていたい」という姿を描きます。
ここでいう3~5年後の組織像は、将来を正確に予測するものではありません。事業環境が変われば、組織も人事制度も見直す必要があります。それでも、どちらへ向かうのかを描かなければ、現在の不具合を直すだけの制度改定になってしまいます。事業が成長したら、また次の問題が発生してしまいます。将来に備えて、少し大きな器へ引っ越すイメージです。
検討する主な着眼点は次のとおりです。
- 今後、伸ばしたい事業・顧客・地域はどこか
- そのために新たに必要となる機能や専門性は何か
- 経営者や一部の幹部に集中している判断を、どこまで組織へ移すか
- 管理職層を何段階にし、それぞれに何を任せるか(ここ重要!)
- マネジメント職と専門職のキャリアをどのように考えるか
- 正社員・非正規社員・外部人材などを、どう組み合わせるか
成長企業で特に注意したいのは、現在いる人の名前だけで組織を考えないことです。「この人には何ができるか」から始めると、現在の人材に合わせた組織図になり、将来必要な機能や役割が見えにくくなります。逆に言えば何ができる人を「育て・確保しなければならないのか」の棚卸の役割も担っています。
まず「組織」を描き、次に「どの階層がどんな役割を果たす必要があるか」を定め、その後に「誰が担えるか(将来を含め)」を考えます。未来の組織図作りとは、事業の変化に合わせ、必要な機能・役割・権限責任を描き直すことを指しています。

STEP2|必要な役割・人材と現在とのギャップを整理する
未来の組織像を描いたら、現在とのギャップ(何が不足しているか)を整理します。ここから、現在の組織・人材を詳しく見ていきます。
ギャップは、まず以下の3つの視点で確認します。
- 組織・機能:近未来に向け、必要な部門が存在し、有機的に機能する体制があるか。特定の部署や人への仕事の集中や、縦割りによる機能不全がおこらないか。
- 役割・権限:誰が何を決め、どこまで責任を負うのかが明確か 役職や等級ごとに期待すること(能力・行動・成果など)を再定義する
- 人材:将来必要な役割を担える人材がいるか。採用・育成・配置で何を補うべきか
既存制度を改定する場合
上記を考えた上で、現在の制度(役割・等級・評価・賃金など)を確認し、どこにギャップがあるかを見ていきます。改定を行う企業なら改定方針を策定していきます。過去の仕組み、かつての状況の中で作ったものなので、否定する必要はありません。未来に向けてどうするかを前向きに考えていく…ここがポイントです。
もう一つの留意点は、現場から出ている不満を、そのまま制度上の原因と決めつけないことです。「評価に納得できない」という声の背景に、役割分担の曖昧さ、上司との対話不足、仕事の偏り、昇格基準の不透明さが隠れていることがあります。
表面に出ている症状と、その症状を生んでいる原因を分けて考えることが重要です。
初めて制度を作る場合
ここで初期構想を練っていきます。これまで暗黙に行われてきた昇格・評価・昇給の判断基準をまずは言語化していきます。よく部下からみると、感覚で決めているとか、好き嫌いだとか、揶揄されることもありますが、経営者が直接決めている場合は、多岐にわたる複雑な要素を配慮し、しっかり考え抜いて決めていることが多いです。よく考えているので、逆に言語化の難易度が高い…といったことも発生しますが、まずはもれなく、ダブりなく、整理をすることが重要です。
STEP3~6|役割・等級・評価・賃金・育成を一本の線でつなぐ
未来の組織と現在とのギャップが見えたら、必要な役割を人事制度へ落とし込みます。ここからのポイントは、それぞれの制度を別々に設計しないことです。
STEP3|役割を等級制度に落とし込む
等級制度では、会社が社員をどのような基準で区分し、上位になるほど何を任せるのかを明確にします。また、役職と等級を一致させるか否か、どちらが自社にあうか…、また他の道はないか…といった役割定義と仕組みの連動を考えていきます。
先に「階層数は6等級にする」と決めるのではなく、まず必要な役割を並べ、責任の大きさ・仕事の難易度・成果への影響範囲などの違いを整理します。その結果として、何段階の等級が必要か、職能・職務・役割のどこを基準にするかを決めます。
ここでの留意点は、人を格付けする前に、役割を定義することです。現在の給与や肩書に合わせて等級を作ると、役割よりも人を基準にした制度になり、将来の配置や登用に使いにくくなります。
等級制度の具体的な設計手順については、こちらの記事で詳しく解説しています。
▶ 等級制度とは?職能・職務・役割等級の違いと、自社に合う制度のつくり方
また、管理職だけでなく専門職など複数のキャリアの道を設けたい場合は、「複線型人事制度とは?管理職だけではないキャリアパスのつくり方」もあわせてご覧ください。
STEP4|期待する行動・成果を評価制度につなぐ
等級ごとの役割が定まったら、その役割を果たすために期待する能力・行動・成果を評価基準へ落とし込みます。
- 能力:身につけた知識・技術。客観視しにくいものもある。
- 行動:能力を発揮した具体的な行為。習得した能力を発揮しているかを測ることができる。
- 成果:結果として生まれた達成度や業績
これは職種によって、なにを求めるべきかが大きく変わります。在籍するメンバーに何を求めているのか。目標を設定し、進捗管理を図ることができるのか。こんな視点で設計をしていきます。ここが極端に振れてしまいバランスを欠いてしまうと、平素の指揮命令内容と評価のギャップが大きく発生します。実際に何をしてほしいのか、どんな期待をしているのか、ここにフィットさせていくことが重要です。
管理職であれば、自分自身の業績ではなく、方針を示し、役割を分担する、部下を育て、他者を通じて成果を出すといった期待を明確にしておくことが重要になります。
留意点は、評価項目を増やしすぎないことです。立派な言葉を数多く並べても、日常の仕事で観察できなければ評価できません。何を見れば評価できるのか、本人と上司が同じ場面を思い浮かべられる表現にする必要があります。
評価項目の具体的な作り方については、こちらの記事もご覧ください。
▶ 人事評価制度の作り方|評価シートを作る前に決めたい6つのこと
▶ 評価項目の作り方|階層別に「役割・能力・成果」から設計する
STEP5|役割・等級・評価と賃金をつなぐ
賃金は、「何に対して、どのように報いるのか」の指標です。例えば、担っている役割や等級を基本給の水準に反映し、一定期間の評価結果を昇給や賞与に反映するなど、各制度の役割分担を整理します。役割・等級・評価との関係を先に定め、そのうえで賃金レンジや昇給ルールを設計します。会社が求める役割・行動・成果と、昇給・賞与などの処遇のつながりを明確にすることが、社員の納得感を高めるポイントです。
制度案ができたら、総額人件費と社員一人ひとりの移行結果を必ずシミュレーションします。制度として整っていても、会社が継続して支払えなければ運用できません。また、給与や労働条件への影響、就業規則等の改定、社員への説明方法、移行措置も確認が必要です。厚生労働省が公開する制度改定事例でも、役割と賃金を連動させる一方、移行時には労働条件の不利益変更とならないよう配慮した例が紹介されています。
賃金制度の具体的な設計手順については、こちらの記事で詳しく解説しています。
▶ 賃金制度の作り方|給与テーブル前に決める「何に払うか」
また、初任給の引き上げによって既存社員との給与バランスが崩れている場合は、次の記事も参考になります。
STEP6|育成・配置・運用まで一連で設計する
人事制度は、評価結果を決めて終わりではありません。評価によって明らかになった強みや課題を、育成・配置・次の役割へつなげて、初めて会社と社員の成長に活用できます。
誰が評価者へ制度を説明するのか、目標設定や評価面談をどう行うのか、評価結果をどの会議で確認するのか、昇格・配置・育成へどう反映するのかまで具体化します。
留意点は、自社の管理職が継続して運用できるかを優先することです。制度を精緻に作りすぎて、評価者が理解できない、面談時間を確保できない、判断材料を集められないといったことが起こると、制度は運用段階で形骸化します。
導入前には、できれば試行期間を設けます。実際の目標設定や模擬評価を行うと、評価基準の曖昧さや、判断が分かれる箇所が見つかります。最初から完璧な制度を目指すのではなく、運用しながら検証・改善できる仕組みにしておくことが大切です。
人事制度設計で起きやすい5つの失敗
最後に、人事制度の設計で失敗しやすい論点のおさらいです。
- 評価に不満があるので、評価(だけ)を改定して解決しようとする
- 他社の制度や流行の制度を、そのまま自社へ当てはめる
- 現在の組織や役割を基に、制度をつくる
- 制度を細かくしすぎて、運用できなくなる
- 制度設計を優先し、移行・説明・評価者育成を後回しにする
どれも、制度の部品を先に作り始めたときに起きやすい問題です。迷ったときは、「この仕組みは、3~5年後の組織と必要な役割につながっているか」という上流の問いへ戻ります。
人事制度は「未来の組織を実現するための道具」
人事制度の設計は、評価表や賃金表を作ることではありません。
3~5年後の会社・組織の姿を描き、必要な役割と現在とのギャップを整理し、等級・評価・賃金・育成を一本の線でつなぐ。これが、人事制度設計の基本的な順番です。
制度を部分的に直しても問題が繰り返される場合は、評価や賃金の手前にある組織・役割から確認する必要があります。
せんだ兄弟社の「人事制度の課題整理相談」では、現在出ている症状だけでなく、その背景にある組織・役割・制度のつながりを整理し、何から検討すべきかを一緒に明らかにしていきます。
経営方針や成長戦略から未来の組織像を描き、等級・評価・賃金・人材育成を一貫した仕組みとして構築・改定したい方は、中小企業の人事制度構築・改定コンサルティングをご覧ください。外部コンサルタントに依頼すべきか、どこまで支援を依頼すべきか迷っている方は、人事制度コンサルとは?支援内容・費用の考え方と依頼前の見極め方で詳しく解説しています。
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人事制度の設計に入る前に確認したい5つの問い
制度の部品をつくり始める前に、まずは自社の現在地を確認してみてください。5つの問いを1枚にまとめたチェックシートを用意しました。

自社では何から整理するべきか、一度一緒に確認してみませんか。
