人事評価制度をつくろう、改定しようとするにあたり、「どんな評価項目にすべきだろうか…」と考えるのではないでしょうか。
「成果についてはどうしよう」
「主体性や協調性も必要だなぁ」
「管理職のマネジメント項目はどうしよう…」
評価項目とその内容を考え、評価シートをつくっていく。一見すると自然な進め方です。
しかし、人事評価制度の構築や見直し工程を評価項目から考え始めると、個別項目の集合体となりやすいのが実態です。こうなると、討議するメンバーが変わるたびに意見が割れ、結論が定まりにくくなります。
本来、先に考えるべきなのは、
「会社が、それぞれの社員に何を期待しているのか」です。
会社が期待することが曖昧なままでは、「なぜ、この項目で評価するのか」「どうすれば高く評価されるのか」を明確に説明できません。
人事評価制度は、社員を年に1~2回採点するだけの仕組みではありません。
会社が社員に期待する役割や、求める成果・行動を具体的に示し、その結果を処遇や育成につなげていくための仕組みです。
この記事では、評価シートをつくる前に決めておきたい6つのことから、人事評価制度の作り方を考えていきます。
1.人事評価制度が果たす5つの役割
人事評価制度が果たす役割は、大きく5つあります。
- 会社が社員に求める役割・期待を伝える
- 求める成果・行動を具体化する
- 個々の目標や期待を明確にし、進捗を確認する
- 昇給・賞与・昇格など処遇の判断根拠にする
- フィードバックを通じて育成・配置につなげる
5つの役割のどこを重視するかは企業によって差がありますが、注意したいのは、「処遇を決めること」だけが評価制度の役割ではないことです。
社員にとっても、「会社は自分に何を期待しているのか」「何をできるようになれば次の役割を任せてもらえるのか」が分かることには大きな意味があります。
人事評価制度には、会社と社員の間で「期待」をすり合わせる共通言語としての役割もあるのです。
2.なぜ「評価項目」から考え始めてはいけないのか
評価項目からつくり始めると、「主体性」「協調性」「責任感」「コミュニケーション力」といった、ビジネスに必要とされる一般的な言葉が並びやすくなります。
これらの項目自体が悪いわけではありません。問題は、
「なぜ、自社ではその項目が必要なのか」
を説明できるかどうかです。
例えば「主体性」でも、「指示を待たず、自ら改善提案すること」を求める会社もあれば、「周囲を巻き込みながら自ら仕事を進めること」を求める会社もあります。
同じ言葉でも、会社や役割によって期待する行動は違います。
そのため、評価項目からではなく、
「何を期待するか → どんな成果・行動を求めるか → 評価項目」
の順で考える必要があります。
つまり、評価シートづくりがスタート地点ではなく、会社が社員に求めることを整理した結果としてできあがるものなのです。
人事制度全体をどのような順番で設計するかについては、[人事制度は何から設計する?評価より優先すべきは「3~5年後の組織」]で詳しく解説しています。

3.評価シートを作る前に決めたい6つのこと
(1)目的を定義:評価制度で実現すべきこと
まずは、現状を鑑み、自社が評価制度で解決したい課題と優先順位を整理します。現在の仕組みで上手くいっていることと、そうでないことの棚卸です。
前述した5つの役割を踏まえ、どこに重点を置くかを考えます。3~5年先を見据え、今後も活かしたい点と、見直すべき点を明らかにしていきます。
(2)期待役割・成果・行動など:何を担い、どう成果を出してもらいたいか
次に、役職・等級・職種ごとに、何を担ってもらい、どのような成果・行動を期待するのかを一体で整理します。
実務では、全階層について同じ項目を一律に定義するわけではありません。階層や職種に応じて、必要な要素を整理していきます。例えば、次のような観点です。
- 役割:担当業務や担当組織において何を担ってもらいたいか
- 能力:どのような知識・技術を蓄積してもらいたいか
- 行動:どのような行動(質・量・スタイル)を取ってもらいたいか
- 成果:どのような業績や状態を実現してもらいたいか
- 責任・権限:上位役職など必要に応じて、何に責任を持ち、どこまで判断・決定するか
特に行動については、「どのような行動をすると、求める成果につながるのか」という視点が重要です。高い成果につながっている社員の行動特性、いわゆるコンピテンシーなども参考にしながら、期待する行動を言語化します。
例えば営業職なら、「顧客対応力」で終わらせず、「事前に顧客情報を収集する」「質問によって課題を掘り下げる」「次のアクションを明確にする」など、実際の行動まで具体化します。
評価する側とされる側が、同じ基本行動をイメージできる状態をつくることが重要です。
参考記事:階層(プレイヤー層・マネジメント層など)によって評価項目の中身をどう変えるかについては、
[評価項目の作り方|階層別に「役割・能力・成果」から設計する]で詳しく解説しています。
(3)評価項目:何を評価するのか
ここまで整理して、初めて具体的な評価項目の設計に入ります。
(2)で整理した役割・能力・行動・成果のすべてを、そのまま評価項目にするわけではありません。(1)で定めた目的に照らし、何を評価すべきかを選び、項目として整理します。
この順番で考えることで、「なぜ、この項目で評価するのか」を説明できるようになります。
(4)評価項目の設計原則:原則は1項目・1要素
評価項目を設計するときの基本原則が、
「1つの評価項目に対して1つの要素」
を設定することです。
例えば「納期管理:適切な業務計画を立案し、進捗管理と進行報告を徹底させ、納期を遵守する」という項目にした場合はどうでしょう。
- 計画 △:立ててはいるが、曖昧で具体性がない
- 進捗管理と進行報告 ×:口頭の報告のみで、計画への消込は不明瞭
- 納期の遵守 ○:結果として納期は守った
このような状況の場合、あなたならどう評価をつけますか?
最終的にどこを重視して評価するかを評価者に委ねることになり、ばらつきの原因を生みます。
一方、不可抗力により納期遅れが発生したものの、指示に従って緻密に計画を立て、こまめに具体的な報告をしていた部下が低く評価されれば、「指示にそって仕事をしても評価されないのか。結局、見ているのは結果だけか…。」という不満にもつながります。
結果を重視するなら、評価項目を結果に絞った方がブレにくくなります。プロセス(行動)も重視するなら、項目の中で、プロセス(行動)と結果を混ぜない方がよいでしょう。
評価を安定させるためにも、原則1項目・1要素。「この項目では何を見るのか」を明確にすることが重要です。

(5)評価基準:どの状態なら、どの評価なのか
評価項目が決まったら評価基準を設定します。
「Excellent」「Good」「OK」といった段階を示すだけでは、人によって解釈が異なります。評価基準は項目の性質に合わせて考えます。
能力:必要な知識・技能を、どのレベルまで習得しているか
※能力評価では、実際にその能力を使う機会の有無に左右されないよう、原則として知識・技能の習得度を見ます。「○○力」のように発揮状態を評価したい場合は、具体的な行動に落として行動評価で確認すると整理しやすくなります。
行動:求める行動をどの程度、自律的・継続的に行えているか
成果:目標達成度・品質・期限など、どこまで結果を出したか
といった形です。
基準が曖昧だと、評価者個々の判断ウェイトが高まり、評価のブレにつながります。
(6)評価の活用:結果を何にどう使うのか
評価結果は、昇給・賞与・昇格だけに使うものではありません。
フィードバックを通じて、「どこまでできているか」「次に何を伸ばすか」を本人と共有し、育成につなげることが重要です。
また、本人の強みや適性を把握すれば、配置やキャリア開発にも活用できます。
評価して終わりではなく、次の成長につなげるところまで設計する。ここまで仕組みとして考えて初めて、評価制度が一つのサイクルとして機能します。
4.人事評価制度をつくる実務フロー
ここまでの話を、実際の構築工程に並べると次の流れになります。
STEP1 評価制度の目的を決める
何のためにつくるのかを明確にする。
STEP2 役割・期待する成果を整理する
役職・等級・職種ごとに、何を担い、どのような成果を期待するかを整理する。
STEP3 期待する行動を整理する
成果につながる基本行動を具体化する。
STEP4 評価項目・評価基準を設計する
何を見て、どの状態ならどの評価なのかを決める。
STEP5 評価シートへ落とし込む
決めた評価項目・評価基準を、実際に使用する様式へ反映する。
STEP6 試行し、調整して運用する
ポイントは、評価項目を具体的に考えるのがSTEP4、評価シートの作成に落とし込むのはSTEP5であることです。
特にSTEP1~3が曖昧なままでは、STEP4以降で整合性を取ることが難しくなります。
反対に、
「目的 → 役割 → 期待する成果・行動」
が整理されていれば、それを根拠に「だから、この項目を評価する」と説明できます。
意見が割れたときは上流にさかのぼり、どうすれば目的に沿うかを考えればよいのです。
5.具体例|管理職への期待を評価項目に落とし込む
例えば管理職に期待する役割を、
「他者を通じて、チームとして継続的に成果を出せる状態をつくり、担当組織を運営すること」
とします。
成長企業では、管理職がプレイヤーを兼ねる場面も少なくありません。もちろん、自ら成果を出すことを否定するものではありません。ただし、優先順位は明確にしておく必要があります。
この例では以下のような考え方をしています。(※以下は役割定義の一例です。企業によって管理職に求める役割は異なります。)
まず管理職として、目標を定め、役割を分担・委譲し、進捗を管理し、部下を通じて組織として成果を出せる状態をつくる。そのうえで、業務効率化などによって生み出した余力を使い、必要に応じて自らもプレイヤーとして不足する戦力を補います。
「自分で成果を出しながら、空いた時間でマネジメントする」のではなく、マネジメントを先に成立させ、その上で必要なプレイヤー業務を担う。この優先順位が基本です。
役割から期待行動・評価項目へ落とし込む
そこで期待する行動として、
- 組織目標を設定する
- 個々の目標に落とし込み、仕事を分担・委譲する
- 定期的に報告を受け、進捗を確認する
- 必要に応じて行動の軌道修正を促し、育成する
といった形で整理します。
そこから「業績マネジメント」「部下育成」といった大きな評価領域に対し、さらに、
- 組織目標の設定
- 個人目標の設定
- 進捗管理
- 役割分担・委譲
- OJT計画
- フィードバック
- キャリア支援
などの具体的な評価項目へ分けていきます。
大きな評価領域で整理しても、実際に評価する項目は原則1項目・1要素にする。そして最後に、「どの状態なら3なのか」「どこまでできれば4なのか」という基準を設定します。
こうすることで、
役割 → 期待行動 → 評価項目 → 評価基準
が一本につながります。

6.人事評価制度づくりでよくある失敗
評価制度づくりでは、次のようなことが起こると、運用時に上手くいかない要因となります。
・評価項目を増やしすぎる
何でも評価項目にしようとすると、本当に重要なことが見えにくくなります。
評価項目が多くなる場合は、大分類→中分類→小分類と整理すると分かりやすくなります。小分類が同じ評価要素を具体化した観点であれば、評価観点の例示としてひとまとめにすることもできます。
例えば「進捗管理」という1つの要素の中に、「計画との差異を把握する」「必要な修正を行う」「関係者へ共有する」といった観点を置く形です。これは同じ評価要素を観点として具体的に例示した…という位置づけです。3つとも安定して実践できていれば○、一部に不足があれば△など、観点ごとの状態と総合評価の関係もあらかじめ決めておきます。
一方、「計画立案・進捗管理・納期遵守」のように異なる評価要素を一つの項目としてまとめて点数化すると、前述した評価のブレが起こりやすくなります。
・抽象的な言葉だけで終わる
「主体性」「責任感」といった抽象度が高く、解釈を人に委ねやすい言葉は、評価のばらつきを生む原因です。自社では「どのような行動を指すのか」を具体化していきましょう。
・評価基準が曖昧
項目が明確でも、基準が曖昧なら評価者による差は残ります。
・日常のマネジメントと評価項目がズレている
そして、もう一つ重要なのがこれです。普段求めていることと評価項目が違えば、社員の納得感は得にくくなります。極端に言えば、「言われたことを頑張っていても、期末の評価は別だ」と言われるなら、誰も指示に従わなくなります。
期待する役割や行動から評価項目を考えるのは、日常のマネジメントと評価を一致させるためでもあるのです。

そもそも今の評価制度を見直すべき状態なのか迷っている場合は、[人事評価制度の見直し方|若手が辞めない「成長する評価」3つの手順]も参考にしてください。
7.評価制度は日常のマネジメントとつながって初めて機能する
本当に重要なのは、評価をつける瞬間だけではありません。評価と評価の間にある日常です。
上司が普段から、「あなたにはここまで期待している」「今はここまでできている」「次はここまで伸ばそう」と伝える。本人も、会社から何を期待されているのかを理解して仕事をしている。
その積み重ねがあって、評価時期に振り返る。こうなれば、評価面談だけが突然現れる特別な場ではなくなります。
人事評価制度は、社員を採点する仕組みであると同時に、
「会社・管理職・社員の間で「何を期待しているのか」をそろえる仕組み」
でもあります。
だから、人事評価制度をつくるときには、評価項目から始めるのではなく、まず社員に何を期待するのかを言葉にする。ここから始めることが重要です。
まとめ|評価シートは最後にできあがる
人事評価制度をつくるとき、最初から評価シートをつくる必要はありません。
先に整理すべきなのは、
- 何のための評価制度なのか。
- その社員に何を期待するのか。
- どのような成果・行動を求めるのか。
です。
そこから、
「役割 → 期待する成果・行動 → 評価項目 → 評価基準 → 評価シート」
へ落としていきます。
この順番で考えれば、一つひとつの評価項目について、「なぜ、この項目を評価するのか」を説明できるようになります。
制度をつくること自体が目的ではありません。社員が期待されていることを理解し、管理職が日常のマネジメントに活用し、その結果を処遇や育成につなげる。
そこまで機能して初めて、人事評価制度は会社の成長を支える仕組みになります。
評価制度を見直したいが、何から整理すればよいか分からない方へ
せんだ兄弟社では、いきなり制度を作り替えるのではなく、まず現在の制度・組織・役割のどこにズレがあるのかを整理するところから支援しています。
- 評価項目はこれでよいのか
- 評価者によるばらつきが大きい
- 評価結果が育成につながっていない
といった課題についても、まず現状を整理することから始めます。
